前日に、人口呼吸器が外れたウサギさん。今日は、ICUからHCUと言う、4人部屋に移されていた。3階のICUがある部屋とは同じ階ではあるが、容態が少し良くなったのだろう。ウサギさんの左側には窓があるので、向の建物と空だけはみえる。テレビが備え付けてはあるが、電源が入っていない。そして気になったのは4人部屋には男性もいるということ。うさぎさんへの視線がどうも私を正直不快にさせた。救命病棟と言うこともあり、男女を分けるほど部屋数に余裕がないのかなのか、他に理由があるのかは分からないが、この点だけはどうもスッキリしなかった。男性の看護師が女性の着替えを手伝ったりしているのも、気になったので、出来れば女性の看護師の方にお願いをしたいとは、ハッキリと伝えた。
医師の方と話す機会があった。昨年にも脳卒中を患っており、今回の脳出血で2回目となる。今回は出血も多いことから意識はまだ朦朧としていると説明がある。この状態がいつまで続くのか、ウサギさんはこれからどのように回復をしてゆくのかと言う質問をしたかったが、「そうですか、分かりました。ありがとうございました」とだけ伝えた。
患者が時間の経過と共にどのように回復をしてゆくかは調べればいくらでも分かる。そして年齢や患者の状態により回復のスピードも、後遺症の大小も異なってくるはずだ。私は、うさぎさんが完全回復をすると信じると決めた。人間。そして脳が秘めた無限の可能性がうさぎさんを完全回復に導いてくれる。私にできることは、自分の不安を消すための質問を医者や看護師にすることではなく、日々、うさぎさんがどのように回復してゆくかを限られた時間の中で観察し、翌日の面会の時に少しでもうさぎさんが喜んでくれる言葉をかける、励ます、そしてビッタリと寄り添うことだけだ。
何度かうさぎさんに声をかける。私の方には目を開いた状態で顔を向けてくれてはいるが視点があっておらず、瞳もどこか潤み霞んでいる。アグネスからのワッツアップのメッセージを見せるが、読めてはいない。途中で疲れてしまい目を背けてしまう。聞いているかどうかは分からないが、代わりにメッセージを耳元で読んであげることにした。
私の声や友達、義理の親父の声だけを聞かせているのも、どうなのかと思い、面会時間はずっとウサギさんが好きなユーチューブのチャンネルを音量を絞り、ラジオのように聞かせていた。「猫のマサとDIY」の動画を流している時は、マサの鳴き声に強く反応したので、携帯が観える位置に携帯を置いてあげた。「早く香港に帰って、一緒にマサを観よう」と伝えると、心なしか嬉しそうな表情をしていた。
ウサギさんのスーツケースには化粧品やその類のものが沢山入っていたが、何をどう使うのか全く分からない。とりあえず顔に化粧水のようなものを塗ったが、今思えば、顔も拭かない状態で化粧水は塗るべきでは無かったのかも知れない。綺麗好きでいつもいい匂いのウサギさん。病院に何を持ち込んでよいのかわからないので、お風呂に入れないで匂いが気になっているのではないかと思い、タイで買ったペンのような形の香水を首筋と枕に少しだけ塗った。隣にいた看護師の女のコが「あっ、良い匂い」と言っていた。
あっという間に1時間が過ぎた。「愛しているよ。また明日来るからね」と声をかけ病院を後にした。


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