ウサギさんがいるICUにいたのは女性の看護師。まだ意識が朦朧としていると言う。鎮静剤によるものなのか、脳卒中によるものなのかは医師から説明をしてもらえるようだ。医師の方の予定や状況によりなんとも言えないが、翌日医師から説明してもらえることになる。それにしても看護師も医師も患者の家族から日々、患者が回復するのか回復しないのかなど、答えに困る質問を日々されているのだと思うと、体力以上に精神的にエネルギーを消耗してしまうのだろう。ただ、病棟にいる看護師や医師の方を見ていると、元気ではきはきとした人が多いように感じる。知人にもICU病棟で看護師をしている子がいるが、その子も非常に明るく元気っ子だ。このような性格でないと務まらない仕事なのかもしれない。
ウサギさんの心拍数や血圧を示すモニターがピコピコ点滅しているので看護師を呼ぶ。今日は血圧が高くそれに反応しているようだ。入院した日から血圧が高くそれを抑える治療をしていると言う。慢性的な血圧の高さに加え痛みなどにより、数値があがることもあると説明をうける。
看護師のマネージャーの方とビニールで覆われたICU室の中で挨拶をする。鎮静剤の投与をしたり止めたりすることで、ウサギさんが人口呼吸器に頼らず、自分の意思でしっかりと呼吸ができているか確認をしているとのこ。
他の看護師が部屋に入ってきたので会話が途中で中断してしまうが、マネージャーが部屋を出る際に、落ち着きしっかりとした口調で「奥様は大丈夫でしょう」と言ってくれた。ウサギさんが意識を取り戻すかどうか分からない状況にある中で、私はこの言葉によって期待を持てるようになった訳ではないが強く勇気付けられたのは確かだ。医師も看護師も彼らの発言が患者とその家族に大きな影響を与えることは理解している。これらを恐れるあまり、当たり障りのない表現になってしまう人がいるのは十分理解ができるが、そんな中でも、はっきりと本人の口から言葉をかけることが出来る人を私は尊敬する。
小さなポーチに入ったゴンとニャー君、そしてタイに住む友人キングからもらったLuang Por Phromのお守りを持って面会に行く。ウサギさんの枕元にはキングからもらった同じくLuang Por Phromが納められた寺院が刺繍された布を、看護師から許可を得て置かせてもらう。これらは全て、香港を離れ仕事や休暇で海外にいる時は、必ず私たち夫婦が持ち歩いているお守りだ。
私が病室にいる間に、ウサギさんの目が開いた。焦点は定まっておらず目はうるんでいるが、目が私の方に向いているのは分かる。配線と管がない右手にポーチを握らせ、「俺だよ、分かるか」と声をかけた。義理のおやじのボイスメッセージとアグネスからのメッセージを私が読んでウサギさんに伝言として聞かせた(この時はまだ義理の母親と弟のジェレミーにはウサギさんが脳卒中で倒れたことは伝えていない)。
私のことを認識していることははっきりと分かった。何か言葉を発したそうだが、人口呼吸器と出血の影響で言葉を発せないのだろう。目だけが潤んでいる。
右手を握り、手の甲にキスをしながら、「大丈夫だ。愛しているよ。また明日来るからね」と伝え部屋を出た。

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